原子番号83はビスマス、元素記号はBiです。元素名については、ドイツ語で「白い塊」を意味する単語からきているとされています。和名では「蒼鉛(そうえん)」とも呼ばれます。「蒼」という字には「くすんで生気のない灰色」という意味があります。元素記号はラテン語で「溶ける」という意味のある単語(bisemutum)からつけられました。
常温常圧の状態では淡く赤みがかった銀白色の、柔らかくて脆い金属です。三方晶系の結晶構造で安定しています。凝固すると体積が3~3.5%増加、電気・熱ともに伝導性が低いという特徴があります。
ビスマスは自然蒼鉛として単体で産出されることもありますが、多くは輝ビスマス鉱やビスマス華として産出されます。また、鉛やモリブデン・タングステンを製錬する際に副産物として得ることができます。天然物の主な産地はボリビア・オーストラリア・ルーマニア・アメリカなどです。日本ではビスマスが単産できる鉱山は存在せず、タングステンが採れた岐阜県・恵比寿鉱山や銅が採れた栃木県・足尾鉱山などで副産物としてビスマスが生産されていました。
人工的に作られるビスマスの結晶は天然物と違って、骸晶と呼ばれる形をしており、表面が玉虫色に光り輝いています。その美しさから鉱物コレクターの中で一定の人気があります。人工のビスマス結晶が玉虫色に輝くのは、水面に張った油膜やシャボン玉の表面が虹色に見えるのと同じ原理で、表面の酸化膜が光を回折するのが原因です。ビスマスの塊から比較的簡単にカラフルな結晶を作り出すことができるため、自由研究などでも人気があります。
ビスマスの主な同位体であるビスマス209は長年にわたって、安定同位体であると考えらえていました。ですが、2003年に精密な測定を行ったところ、とても長い半減期を持つ放射性同位体であることがわかりました。その半減期は2000京年と言われています。
宇宙の誕生から現在までで100~200憶年かかっていると考えられているため、その半減期はけた違いです。さらに、宇宙が終わりを迎えるまでを計算すると、短く見積もっても100京年だそうですから、ビスマス209は人類にとってはほぼ安定同位体と変わらない存在であると言えるでしょう。
ビスマスの化合物は、腸の粘膜にあるたんぱく質と結合して被膜を作ることができます。それにより炎症を起こした部分の刺激を和らげることができることから、整腸剤として利用されています。
ビスマス単体と他の金属(カドミウム・スズ・鉛・インジウムなど)で合金を作ると、元の金属より融点が低くなります。このことを利用して、鉛フリーのはんだとして利用されるようになりました。
比重の高さ、生体にとって無害であることなどから、散弾や釣り用のおもりなどで鉛やカドミウムの代替品としても使われています。