原子番号81はタリウム、元素記号はTlです。元素名については、ギリシャ語で「緑の小枝」を意味する単語から命名されました。これはタリウムの原子スペクトルが緑色であるところからきています。
単体のタリウムは常温常圧の状態では銀白色の柔らかい金属で、六方最密充填構造の安定した結晶構造をしています。約230℃以上になると、体心立法構造で安定するようになります。水と反応すると水酸化タリウムを作り、人体の中に入るとカリウムイオンと置き換わって毒性を示します。これらの性質はカリウムに近いため、金属タリウムは石油の中で保管する必要があります。
イギリスの化学者・クルックスがタリウムを発見しましたが、それは偶然でした。元々、クルックスはセレンを研究するためにセレンを分離していました。その時にセレンの分離とともにテルルが抽出できると考え、セレンの分離に使った残留物を保管しておきます。そのころ、ドイツではスペクトルによって元素を分析する方法が開発されており、クルックスがその方法でセレンの残留物をスペクトル分析しました。そこで発見したのが、テルルの黄色いスペクトルではなく鮮やかな緑色のスペクトルでした。それが当時の新元素・タリウムのものだったのです。
タリウムが産出される鉱物としては、クルックサイト・ハッチンソナイト・ローランダイト・ユルバナイトなどがありますが、どれも資源としては少なく希少なものです。銅・鉛・亜鉛などの硫化鉱物にもタリウムが少しだけ含まれているため、これらの金属を精製する際に副産物としてタリウムが回収されています。
地殻中には0.00006%(0.6ppm)ほどしか存在しておらず、レアメタルの1つとなっていますが、毒性が強いためあまり需要もないのが現状です。
人体にとって、タリウムは強い毒性を持つ物質です。接触した皮膚から体内に吸収されることもあれば、気道からの吸収もあります。タリウムを摂取して数日すると中毒症状として脱毛が起こります。さらには皮膚炎や神経障害(失明・下半身不随など)、爪に白い横縞(ミーズ線)が入る異常などが現れます。これはタリウムが体内でカリウムに置き換わって、細胞毒として作用することが関係しています。
他にも循環器系・呼吸器系・神経系・消化器系・肝症状・泌尿器系と全身にいろいろな症状が出ます。
タリウムの毒性を利用して、タリウムの化合物が農薬や殺鼠剤・殺蟻剤として利用されてきました。ですが、農薬としてのタリウムの利用は2015年に終了しています。
タリウムを水銀と合わせて合金(アマルガム)にすると、水銀を-60℃まで液状にしておくことができます(水銀単体の融点は-38℃)。このことから、極寒の地で気温を測るための温度計に使われています。また、光屈折レンズ・赤外線センサー・γ線の測定器にも使われます。