原子番号85:アスタチンの特徴や性質

半金属

原子番号85はアスタチン、元素記号はAtです。元素名はギリシャ語で「不安定」という意味のある単語が由来になっています。

アスタチンは元素周期表を発表したメンデレーエフによって「エカヨウ素」として予言されていました。1932年にフレッド・アリソンが85番元素を発見したと発表しましたが、否定されています。その後、1940年にアメリカの物理学者・セグレによってアスタチン211が初めて作られました。

発見されてから80年が経ったことになりますが、アスタチンについては化学的・物理的な性質はまだまだわからない部分が多くあります。というのもアスタチンは半減期がとても短く、実験中に崩壊して他の元素に変わっていってしまうため、十分な研究が進められないのです。

アスタチンにはおよそ30の同位体があることがわかっていますが、安定同位体は存在しません。半減期が一番長いアスタチン210で半減期は8.1時間、半減期が一番短いアスタチン213の半減期は125ナノ秒です。

そのため、現在アスタチンについてわかっていることは非常に少ないのが現状です。

常温常圧の状態では昇華性があり単体では揮発しますが、水溶性がありアスタチンの水溶液は安定します。ヨウ素に似た化学的な性質を持っていますが、ビスマス・ポロニウムと同様に金属と非金属の間にある性質を持っています。ヨウ素と同じように甲状腺に蓄積すると考えられており、黒や銀色をしていると推測されています。

短時間で変化していくため鉱物の主な成分とはなることができず、自然界では見つけることが困難な元素の一つです。すべての元素の中でも地殻中に含まれている量が一番少なく、ウラン原子100万個の中からもアスタチンは数個しか見つけることができません。地球の地殻中に存在するアスタチンをすべて集めても28g程度だと考えられています。自然界い存在するアスタチンは地殻の中で放射性重元素が崩壊することで作られていると考えられています。

天然のアスタチンを採取することは困難ですが、アスタチン210とアスタチン211はビスマス209にα線を照射することで人工的に作ることができます。ですが、少量でしか作れず、すぐに半減してしまうためコストもかかるので研究がなかなか進みません。このことから、アスタチンの友好的な用途も見つかっていませんが、将来的にはがんの放射線治療に使われると考えられています。

α線を放出する同位体の多くは体内に入れると内蔵の器官に重度の損傷をもたらす可能性が高いのですが、アスタチン211に関しては放出されるα粒子の飛程が短くエネルギーが高いという特徴があり、がんの標的療法に効果的だと考えられています。とはいえ、まだアスタチン自体の研究が進まないため実用化されるにはまだ時間がかかりそうです。