原子番号90:トリウムの特徴や性質

アクチノイド

原子番号90はトリウム、元素記号はThです。元素名については、北欧神話に出てくる雷神・トールに由来しています。

常温常圧の状態では銀白色をした柔らかい金属で延性が高く、安定した面心立方格子構造をしています。1400℃近くになると体心立方格子構造へと転移します。融点と沸点の差が大きく、2946℃もの温度幅がある中で液体の状態となります。トリウムが液体の状態を保つことができる温度差については全ての元素の中の最大となっています。

酸化しやすい物質ですが、酸化によって被膜が作られると酸化がそれ以上進まなくなります。高温になると水素・窒素・ハロゲンと反応し、空気中では加熱によって白い光を発しながら激しく燃焼もします。粉末の状態では常温でも自然発火します。純度が高いトリウムであれば空気中でも安定しますが、酸化物と混ざることで酸化が進み灰色から黒色に変色します。

鉱石としてはモナザイト砂に多く含まれており、多いものでトリウムの含有率は10%ほどになります。モナザイト砂はセリウム・ランタン・ネオジムの資源でもあり、それらの副生産物として得ることができます。おもにオーストラリア・インド・ブラジル・マレーシア・タイなどで産出されます。

天然で存在しているトリウムは放射性のトリウム232だけです。トリウム232は半減期が140.5億年と長いため、地殻中にも豊富に存在していますが水には溶けにくいため海水の中にはあまり存在していません。1828年にスウェーデンの科学者・ベルセーリウスによって発見された当初は安定元素だと考えられていましたが、1898年にキュリー夫人によってアルファ崩壊をする放射性元素であることが発見されました。

トリウムが発見されてから63年後、初めてガス灯の炎を囲む「ガスマントル」として実用化されました。硝酸トリウムを含ませた繊維を灰化した発光体を使うことで、炎の中で硝酸トリウムが酸化されてできる酸化トリウムが白く強い光を発光します。これを利用して、白熱ガス灯やランタンのマントルとして利用されました。

トリウムは高温でも強度があり歪みにも強いことから、航空機やロケットなどのエンジンにトリウムを含んだマグネシウム合金が使われます。また、1948年にはアメリカで酸化トリウムを10~30%含ませた超低分散光学ガラスによるトリウムレンズが発明されました。1950~1970年頃に販売されていましたが、経年変化でガラスが黄色く変色したり、崩壊生成物放射線の懸念があったことから、トリウムがランタノイドに置き換えられていきました。

2008年10月には、東京都内の住宅地の倉庫から放射性物質が発見されましたが、その後、その物質がトリウム232であることが判明し大きなニュースとなりました。