原子番号16は硫黄、元素記号はSです。英名のsulfurはラテン語の「燃える石」を意味する言葉にちなんでつけられました。和名の硫黄は「ゆのあわ」という読みが少しずつ転じて「ゆおう」となり「いおう」へと変化したと考えられています。
化学薬品として最も重要な酸とされている硫酸は硫黄から製造されています。また、硫黄は黒色火薬・合成繊維・医薬品・農薬などの原料として使われています。
硫黄と聞くと、多くの方は温泉地の独特の硫黄臭を思い浮かべる方が多いと思います。ですが、硫黄自体は無臭です。いわゆる硫黄の臭いと言われているものは、硫黄が化学変化を起こして誕生した二酸化硫黄や硫化水素の臭いです。二酸化硫黄や硫化水素は毒性があるため、硫黄臭いと感じたらその場から離れるようにしなければなりません。
硫黄は世界的に見ると単体で自然硫黄としてだけでなく、硫化鉱物・硫酸塩鉱物などの硫黄鉱物として産出されています。深海で熱水が噴出している場所では鉄などの金属と結合した硫化物もできますし、硫黄泉(温泉)では硫黄が昇華した硫黄華・湯の花と呼ばれる硫黄が採れます。火山性のガスに含まれる硫化水素や二酸化硫黄は、ガスを冷やすことで硫黄を採ることもできます。
火山や温泉の近く以外でも、鉱床から採ることができる硫黄もあります。採掘された鉱石を製錬し、硫黄を溶出して取り出します。
日本では火山が多いため、火口付近で露出した硫黄を簡単に採掘することが可能です。そのため、古くから硫黄の生産がおこなわれており、古いものでは8世紀に現在の長野県から朝廷に硫黄を献上した記録が残されています。日本で採れた硫黄は、鉄砲の火薬の原料や火おこしの材料として使われていました。
その後明治時代には国産の純度の高い硫黄がマッチに利用されるようになり、当時の輸出による収益増に大きな貢献を果たしました。それとともに各地の鉱山が開発されましたが、昭和20年代の価格高騰をピークに昭和30年代には資源も枯渇し始めてしまいます。さらに石油を精製する過程で硫黄の生産が可能なことがわかり、硫黄の価格が下落しました。その結果、日本国内の硫黄鉱山は昭和40年代半ばに全て閉山となっています。
長い間、人を含む哺乳類は酸素呼吸でエネルギーのほとんどを産生し、生命活動を維持するのに酸素が必須だと考えられていました。ですが、2017年10月には東北大学のグループが、世界で初めて哺乳類が酸素の代わりに硫黄代謝物を利用してエネルギー産生を行っていることを発見しました。このことは「硫黄呼吸」と命名され、アンチエイジング・がんの予防や治療の新薬開発への期待が高まっています。