元素番号35は臭素、元素記号はBrです。ギリシャ語で「悪臭」を意味する言葉(bromos)から元素記号が決定しました。和名の臭素という名称もその独特の臭いからつけられています。
常温常圧の状態では、赤褐色の液体です。これは非金属元素の中でも唯一の特徴となります。とても蒸発しやすいという特徴もあり、強烈で不快なにおいを放ちます。水には微量溶け込み海水中にも存在していますが、猛毒です。
臭素を含む物質は、古代ローマ時代から利用されてきました。海の中に生息していたムラサキ貝が分泌する無色の液体が空気中で酸化することで紫色の染料を抽出していました。19世紀にアニリン染料が開発されるまで、長らく利用されていました。
臭素化合物は水の浄化・殺菌剤として塩素の代わりに使われることもあります。特に温泉水の浄化には臭素化合物が役立ちます。殺虫剤として土壌燻蒸剤・貯蔵した穀物や農産物を虫から守るためにも利用されています。人体にとっては精神的な興奮状態や性欲を鎮めるという作用があり、19世紀には興奮性の精神病の治療薬や鎮静剤・性欲抑制剤として臭化カリウムなどが使われていました。近年は毒性の方を重視しており、ほとんど使われることはありません。また、写真フィルムの生産にも臭素銀化合物が使われていました。特に白黒写真フィルムの光感度に大きくかかわっています。写真の感光材として臭化銀(臭素の化合物)が使われていたことから、印画紙のことを「ブロマイドペーパー」と呼ぶようになり、そこからアイドルなどの写真を「ブロマイド」と呼ぶようになったという経緯があります。
20世紀以降では家具や家電の難燃剤としての役割が大きくなってきています。家具や家電にポリウレタンフォームやプラスチックなどが多く使われれるようになってくると、それらの素材の可燃性の高さが問題になってしまいました。燃えやすいプラスチックやポリウレタンフォームの表面に難燃剤を使うことで、万が一家庭内で火災が起こっても火の回りを最小限に食い止めることができるようになりました。
臭素は直接肌に触れると腐食が起きるほど毒性の高い物質ですが、私たちの身の回りでは生活に役立ってくれている場面が多くあります。
地球上の海水には推定100兆トンもの臭素が存在していると言われており、多くの国が海水から臭素を生産しています。生産量の多い国はアメリカ・イスラエルが挙げられます。アメリカとイスラエルは臭素の含有量が高い死海の水を原料にして、塩素で酸化することで臭素を生産しています。
日本は世界で5番目の臭素生産国ですが、日本では海水に塩素を吹き込んで生産する方法と、海水から取り出したにがりに塩素を吹き込んで生産する方法がとられています。