原子番号80:水銀の特徴や性質

遷移元素

原子番号80は水銀、元素記号はHgです。元素記号は古代ギリシャ語の「水のような銀」を意味する言葉に由来したラテン語(hydrangyrum)からつけられています。元々は「生きている銀」という呼ばれ方もしており、英語でもそれにちなんでquicksilverと呼ばれている時期がありました。(現在はmercuryと呼ばれていますが、これはローマ神話に出てくる商売の神・メリクリウスにちなんでいます)

常温常圧の状態では凝固せず、液体の状態です。これは金属元素の中でも唯一の特徴となります。銀のように白い光沢をもった輝きをするため、日本語でも水銀という呼ばれ方をしています。(日本でも古くは「みづがね」という呼び方がありました)水銀の融点は-38.83℃のため、その温度まで冷却しないと固体にはなりません。

水銀の鉱石は辰砂で、辰砂を加熱することで水銀が得られます。鉱山によっては、辰砂から遊離して粒状になった自然の水銀が含まれていることがあり古くから利用されてきました。鉱山としてはスペインにある世界遺産・アルマデン鉱山が有名で、古代ローマの時代から2004年まで採掘がおこなわれていました。日本では長崎県佐世保市や北海道留辺蘂町、三重県多気郡などで産出された記録が残っています。

水銀は多くの金属と溶けあうことで、合金になります。合金は水銀の量が多くなるほど液体に近づき、ペースト状になることからギリシャ語で「柔らかい物質」を意味する言葉malagmaにちなんでアマルガムと呼ばれます。水銀と合金にならない金属は鉄・ニッケル・コバルト・マンガン・マグネシウム・白金・タングステンです。この性質のため、水銀を保存する際には鉄製の容器が使われます。

水銀の変わった特徴・特性により、古代の人々は不死の薬として利用されてきた過去があります。特に中国の皇帝は水銀を不老不死の薬の原料として使用して愛用してきました。そのことが日本にも伝わり、持統天皇が若さと美しさを保つために飲んでいたとされています。

しかしながら、水銀には強い毒性があります。水銀の毒性を知らずに不老不死を信じて飲んでいた多くの権力者は水銀による中毒のために命を落としたと言われています。水銀の毒性が認知されるようになったのは中世以降です。

特に毒性の高いのが有機水銀で、中でもメチル水銀は脳の中枢神経に大きな影響を与えます。日本の水俣病(熊本県)や第二水俣病(新潟県)の原因物質にもなっています。

ですが、有機水銀は世界中で農薬として使われてきた歴史があります。そのため、1970年代にはイラクで400人以上が水銀中毒で死亡する事件が起きました。これは、メチル水銀で消毒された小麦の種を使ったパンによって起こされた事件です。現在は世界各地で、水銀の濃度が厳しく管理されています。

毒性のある水銀ですが、農業・研究・医療などの分野で有効に活用されており、電池などの日用品にも使われています。