原子番号66:ジスプロシウムの特徴や性質

ランタノイド

原子番号66はジスプロシウム、元素記号はDyです。元素名はギリシャ語で「近づきがたい」という意味の単語から命名されました。この元素名には、1886年にホルミウム(Ho)と考えられていた元素には未知の元素が含まれていることが発見されてから、分離されるまでに苦労したというジスプロシウム発見までの過程の苦労が表されています。

ジスプロシウムを発見したのは1875年にガリウム、1880年にサマリウムを発見したフランス人化学者のポール・ポアボードランです。これらの元素を発見した当時、物質の分離には水に対する溶けやすさの程度(溶解度)の差を利用しており、レアアースは性質が似ていることからその差が小さく、きちんと分離をすることにとても苦労しました。その苦労の末に「得難い」「近づきがたい」という意味の元素名が付けられたのです。

ジスプロシウムは常温常圧の状態では銀白色をした柔らかい金属で、六方最密充填構造の安定した結晶構造をしています。他のレアアースと同じように空気中に置いておくことで表面が酸化し、高温になると燃焼するという特徴があります。水にはゆっくりと、酸には簡単に溶け、ハロゲンと反応を起こします。

ジスプロシウムが採れる鉱石はゼノタイムです。ジスプロシウムの埋蔵量はとても少なく、地殻に存在する量は他のレアアースと同じく少なく希少です。産出国としては中国が主ですが、2013年に中国がレアアースの輸出制限を実施したことにより、多くのレアアースの価格が高騰してしまいました。このことがきっかけで、レアアースのリサイクル技術が向上したり中国以外の国での生産地調査などが進められるようになりました。

ジスプロシウムの使用用途として身近なものに「蛍光塗料」があります。N夜光(ルミノーバ)と呼ばれる蛍光塗料にはジスプロシウムが使われています。自発的に発光する塗料には放射性物質が使われており、使用に制限があったり管理が厳しくなりがちでした。ですが、ジスプロシウムを使った塗料は事前にあてられた光を蓄光する能力に優れており、10分間日光に当てるとその後10時間以上も発光するという性質を持ちます。ルミノーバは放射性物質を含まず、蓄光・発光を繰り返すことができ蛍光塗料の業界を大きく進歩させました。

ジスプロシウムには中性子吸収断面の面積が大きいという特徴があります。この特徴を生かして、鉛やガドリニウムとの合金で原子炉の制御用材料として使用されています。

磁石として強力なパワーを持つネオジム磁石は、使用可能温度が約80℃でしたがネオジム磁石にジスプロシウムを添加することによって使用可能温度が約200℃まで上昇しました。このことにより、ネオジム磁石が次世代自動車やロボットなどの分野で大きく活躍することが期待されています。