原子番号33:ヒ素の特徴や性質

半金属

元素番号33はヒ素、元素記号はAsです。元素名(arsenic)はギリシャ語で「黄色の顔料」を意味する言葉に由来して命名されたと言われています。和名のヒ素は中国で天然の三酸化ニヒ素が「砒霜」と呼ばれていたことに由来していると言われています。

常温常圧の状態では金属色をした固体であり、半金属に分類されます。古くから生物にとって強い毒性があることが知られており、毒薬として使われたという歴史があります。無味無臭・無色であるために暗殺の道具としても使われた歴史がありますが、ヒ素による中毒で亡くなった場合には、すぐに検出されてしまうため現在では「愚者の毒物」とも言われるようになりました。

生物に対する毒性が強いというヒ素の性質を利用して、農薬や木材の防腐処理に使用されています。また、ヒ化ガリウムは発光ダイオードや通信用高速トランジスタに使われています。抗生物質であるペニシリンが発見される以前は、ヒ素化合物のサルバルサンが梅毒の治療薬として使われていました。

人体の中にもごく微量のヒ素化合物が存在しており、生きていくために必要な微量必須元素の一つであると考えられています。低毒性または体内で無毒化される一部の有機ヒ素化合物は人が摂取しても問題はなく、牡蠣・車エビなどといった魚介類、ヒジキなどの海藻類に含まれています。

有毒なヒ素が体内に入った場合、急性症状としては消化管が刺激を受けることによる吐き気・嘔吐・下痢・激しい腹痛が起こり、ショック症状を起こして死に至ることもあります。多量摂取では、嘔吐・腹痛・口渇・下痢・浮腫などの症状が現れます。慢性的な症状としては、解離性の皮膚炎・過度の色素沈着・抹消精神経営・黄疸・腎不全などが見られます。

ヒ素は海藻や魚介類に多く含まれることがあり、身近な毒と言うことができます。日本の場合は、水道水に含まれるヒ素(化合物を含む)が0.01ppm以下であることが定められていますが、井戸水については水道水以上の濃度のヒ素が検出されることもありますので、注意が必要です。

東南アジアの広い地域では、井戸水による無機ヒ素の摂取が問題になっており、健康被害が発生しました。バングラデシュ・インド(ベンガル州)・中国・ネパール・タイ・メキシコ・アルゼンチン・チリなど世界各地で井戸水由来のヒ素による健康被害が報告されており、その被害者は数千万人に及ぶと言われています。人体に蓄積する時間もありますから、今後も被害者が増えることが予想され、重大で深刻な問題としてとらえられています。

日本でも1955年に粉ミルクにヒ素が混入して多数の死者を出した「森永ヒ素ミルク中毒事件」や、1998年に発生した地域の集まりでヒ素が使われた「和歌山毒物カレー事件」などが起きています。