原子番号51はアンチモン、元素記号はSbです。元素記号はラテン語でアンチモナイトとも呼ばれる輝安鉱(Sb2S3)を意味する言葉からつけられています。アンチモンという名称については由来が諸説あり、ギリシャ語で「孤独嫌い」を意味する言葉・アラビアで古くから使われていたためアラビア語が語源・修道士に与えると亡くなったことからフランス語の「アンチモンク」が由来、など言われています。
常温常圧の状態では、灰色アンチモンと呼ばれる銀白色で金属光沢のある固体で、硬くて脆いという特徴があります。炎色反応は淡い青~紫色をしています。
アンチモンの産地は中国・湖南省がメインで広東省・貴州省などにも鉱山があります。中国だけで世界中の約8割のアンチモンが産出されています。日本でも明治時代以降に愛媛県・兵庫県山口県などの金山からアンチモンが産出されていましたが、資源の枯渇・生産コストがかさむことから現在はすべて輸入に頼っています。2011年には鹿児島湾の海底からアンチモンの鉱床が発見されたと報道され、その量は約90トンと見積もられています。ですが採掘には海洋汚染や漁業被害への配慮が求められるため、まだ採掘はされていません。
アンチモンの化合物は古代から化粧品(顔料)として使われており、最古のものは有史前のアフリカで使われていたことがわかっています。クレオパトラが黒いアイシャドーとしてアンチモンを使っていたという説もあります。ですが、現在は毒性があるとされているため、化粧品には使用されていません。アンチモン中毒を起こすと、体重の減少・脱毛・皮膚の乾燥・鱗片状の皮膚などが見られ、心臓・肝臓・腎臓にもうっ血などが出ます。特に皮膚・粘膜への刺激性が強く、日本では毒物及び劇物取締法・毒物及び劇物指定令によって一部を除いて劇物に認定されています。
そんなアンチモンですが、工業材料として幅広く利用されています。
まず、ケイ素に少量のアンチモンを混ぜたもの・アンチモン化インジウム・アンチモン化ガリウムなどは半導体の添加物や原料として利用されています。また、アンチモンを鉛に混ぜると強度が増すことから、鉛電池の電極に少しだけアンチモンを利用しています。三酸化アンチモンは合成樹脂・繊維・紙・ゴムなどに少量混ぜることで難燃性が向上するため、カーテンやカーペット・テレビ本体のプラスチックなどに利用されています。
アンチモンは溶ける際に体積が減り、固まる際に体積が増えるという特徴があります。多くの金属は固まる際に体積が減るため、それらの金属にアンチモンを混ぜることで体積の変化を小さくした合金を作ることができます。この特徴を生かして、活字印刷用の活字を作る際にはアンチモンが利用されていました。