原子番号89はアクチニウム、元素記号はAcです。元素名はギリシャ語で「放射線」を意味する単語から命名されました。
常温常圧の状態では立方晶系の安定した結晶構造を持った、銀白色の金属です。ラジウムの150倍の放射能を持つ、強力なα線を出し、暗いところでは青白く光るという性質があります。湿気のある空気中では酸化被膜が形成されます。
ラジウムが発見されてから間もなくの1899年、キュリー夫人の研究所にてフランスの化学者・ドビエルヌが閃ウラン鉱からウランを分離した残留物の中からアクチニウムを発見しました。1902年にギーゼルが新元素を発見したと発表しましたが、これはドビエルヌが発見したアクチニウムと同じであることが判明しました。
天然には半減期が21.7年のアクチニウム227と、半減期が6.13時間のアクチニウム228があります。アクチニウム227はウラン235が崩壊する過程で作られます。アクチニウムには性質がよく似た元素が14種類存在します。アクチニウムを含めた全15種類の元素を「アクチノイド」と呼びます。アクチニウムはアクチノイドの代表となっています。
アクチニウムの純粋な分離は、共存するランタンとの分離が難しく、1950年まで成功することがありませんでした。ですが、イオン交換樹脂の開発により、可能になりました。同じころに、原子炉の中で生成されたラジウムを照射することでマクロ量のアクチニウム227がそれまで以上に簡単に得られることがわかりました。純粋な金属のアクチニウムはフッ化物をリチウム蒸気の存在下で高温加熱することで得ることができます。
アクチニウム227は21.77年という半減期を利用することで、海水が垂直方向にどのように混合するのかの過程をモデリングすることに利用されています。この方法はまだ確立されているわけではなく、試験段階です。また、アクチノイドの酸化物をベリリウムで処理したものは効率よく中性子を発生させることができるため、中性子の発生源として使われています。
アクチニウム225の出すα線はがん細胞を破壊してくれます。この性質を利用して、難治性のすい臓がん治療の研究が進められています。マウスを使った実験ではマウスの静脈にアクチニウムを利用した治療薬を投与することで腫瘍の増殖が抑制されることが認められました。すい臓がんは5年相対生存率が10%と低く、アクチニウムを使った治療薬の効果が期待されています。
さらに、前立腺がん・腎がんの治療薬への利用も研究・開発が進められています。α線は他の放射線に比べると細胞の殺傷能力が高いにもかかわらず、透過力が弱く治療部位以外の細胞への影響が少ないという特徴があります。今後、がん治療の分野で大いに活躍することが期待されます。