原子番号55はセシウム、元素記号はCsです。元素名はセシウムを発見したドイツの化学者(2名)が、セシウムの発光スペクトルが青色であることからラテン語の青色にちなんで命名しました。元素記号も同じ単語を元につけられています。
やわらかく黄色がかった銀色をしているアルカリ金属ですが、融点が28.44℃と低く、常温では液体の状態となります。他のアルカリ金属(ルビジウムやカリウムなど)と似た特徴を持っており、-116℃で水と反応をし、自然発火もします。
セシウムと聞くと、日本では東日本大震災において原子力発電所から漏出し、大問題になった放射性物質というイメージがあると思います。ですが、セシウムには種類があり、自然界には放射線を出さない非放射性のセシウムが存在しています。
非放射性のセシウム133は原子時計に使われています。セシウム原子が特定の周波数のマイクロ波を吸収・放射する性質を利用することで「1秒の長さ」が決められています。セシウム原子時計は開発当初は140万年に1秒のずれを生じる誤差でしたが、最新のものは6500万年に約2秒のずれしか生じない誤差にまで精度を高めています。セシウム原子時計による1秒は人類が作り出した最も精度の高い単位と考えられています。
原子時計以外にはX線の検出器、工業製品を作るための促進剤などにも使われています。また、人体の中にも微量のセシウムがあることがわかっていますが、体にとってどのような役割を持っているのかはわかっていません。
放射性のセシウムは人工的に作られており、東日本大震災後に問題となったのはセシウム134とセシウム137などです。セシウム134・137ともにベータ線とガンマ線を放出します。ガンマ線は空気中を数百メートルも飛ぶことができるほどの強度があり、その強度を半分に下げるためには厚さ約6mmの鉛板が必要とされています。さらにセシウム134は半減期が2年、セシウム137は半減期が30年と長いため、人体への影響が大きいのです。
ですが、放射性セシウムも悪いことばかりではありません。輸血用の血液製剤の中にあるリンパ球を不活性化し、輸血された人がショックを起こさないようにすることができます。さらに厚い鉄板を薄く延ばす際に厚さをリアルタイムで測ることができる厚さ計や、石油などの揮発性のある物質のタンク内の量を調べるためのレベル計にも使われています。
原子力発電所から漏出した放射性セシウムは、広範囲の地面・海などに降下しました。植物は葉の表面についたセシウムと根から地中のセシウムを取り込みます。森林などでも汚染した葉が落葉して土にセシウムが吸着しました。地中の微生物に蓄積したセシウムが食物連鎖により大型の動物に汚染が広がっていくことがわかっています。
原発事故によるセシウムの人体への影響はまだわかっておらず、研究が進められています。